状況のデザイン

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状況のデザイン

いまテーブルの上にあなたの家のリビングの模型があるとする。さてこの模型と実際の部屋との違いはなんだろうか。
素材、スケール、精度、機能。これらの点はもちろん異なってはいるが、しかし確固たる違いではないようにも思える。
たとえば子供用の椅子が小さいように、遊具の中に彼らしか知らない空間が広がっているように。
もしかしたらその部屋は小人のためのリビングとして存在し得るのかもしれない。
では、そこに無いものとはなにか。
それは人の存在とその人の行為によって生ずる生活など種々の状況であるといえるかもしれない。

  1. 建築が目指すものはある人(人々)に対して特定の「状況をつくりだすもの」と言える。
  2. 状況は空間を含めたモノと、そこで行われる行為であるコトによってつくられている
  3. 建築的行為(設計などによる建築的環境の実施)はつねにプラグラム建築やダイアグラム建築などという言葉があるように、コトを対象としながらも、コトには踏み込まず、そのコト世界に対して投企的態度(担い手にまかせてしまう)をとってきた、
  4. そのことによって多くの建築的空間が活力をうしなっているように思えるにもかかわらず、これまでモノをつくることが建築的行為の限界のようにかんがえられてきた。
  5. ここで私は建築的行為=「モノ」とそこで行われる行為=「コト」の両方を等しく、よい状況をつくりだすための手法だと私は考え、そのふたつの世界に同時にかかわろうとした。
  6. その時、建築的行為は私たちのよく知っている建築的な世界をより広げてとらえる必要があると考え、それを「状況のデザイン」とした

以下 上記のような意図をふまえた上で「状況のデザイン」を自ら実践してきたなかで、状況との関わり方に沿い「状況をみること」「状況をつくること」「状況を設計すること」という形で考察する。

1 状況を観察すること

状況をデザインするためには、 建築の傍らにある「 状況」 それ自体を より深く理解する必要がある。 そのために自らが関わる長期間のプロジェクトを対象として状況の観 察を行なった。 その記録と考察を次頁以降に記載する。 観察対象1として北千住にあるオルタナティブスペース「 おっとり舍」 を挙げる。
ここでは場としての建物( モノ) が固定されている。 そのなかで 30 以上の多様なイベントや日常的な生活、 または制作、 近隣との関わ りなどと共に、変化し続ける人々の行動( コト)に着目し観察した。{ 観 察期間 : 3年}
対象2としては地域ミニ FM というラジオ放送を主旨としたプロジェク ト、 コジマラジオを選択した。 このプロジェクトはラジオのプログラムをさまざまな場所で繰り返し放 送するといった姿勢をとる。 ここではラジオ放送というひとつのメディア( コト) と移り変わっていく 場所( モノ) との関わり方を観察した。{ 観察期間 : 3年}
モノが固定されている場合でも、 コトが限定されている場合でも状況 は絶えず変化し続ける。 状況をデザインするためには建築家としてコ トに関わっていく姿勢が必要である。 また状況の変化に伴い関わりの深度も変化する。 そしてそれはまた時 間の経過とともに移り変わっていく。

モノとコト、 2つの変数の間に関わる姿勢は変容し続ける。

 

2 状況をつくること

持続性のプロジェクトのなかで、 ダンサー、 音楽家、 美術家、 演出 家、 映画監督、 写真家といったさまざまな人と新たに関係を持つこ とになっていった。 それらの関係性からダンスや演劇、その舞台美術、 インスタレーションの空間構成、作品それ自体の共同制作といった「 コ ト」 にまで自然と活動の領域は広がっていく。 ここで対象となるプロジェクトは、 前述のおっとり舍、 コジマラジオの ように日常からの連続としてある活動とは異なる。それは、 劇場やギャラリーといった閉ざされた世界を演出するという 意味の違いであり、 持続性がなく、 より短期間に状況を創り出すと いう形態の違いである。 これらのプロジェクトはあくまでも作品であり、 より記号的な、 意味的な「 モノ」 や意識の操作、 抽象的な試行が 求められる。日常から離れた特異な状況をデザインすること。 それらを「 状況を つくること」 として括り、 考察をしていく。

これらの活動を通してさまざまな分野における「 制作」 のプロセスを 体験することができた。 この体験は建築の作り方を含めたプロセス 自体を相対化することを可能にした。 また、 ほかの分野のアウトプッ トとして現れてくるからこそ、 その完成されたものに対して常に新た な、 客観的な視点で批評することができたことは特筆に値する。

 

3 状況を設計する

これまでの活動については、 自身が「 状況をつくる」 という視点で述 べてきたが、 状況をデザインするためには状況をつくるプロセスを他 者と共有することが必要となる。 状況をデザインすることは、 多くの人 を、 その「 つくる」 プロセスに巻き込んでいくということである。 ここでは 2010 年に墨田区で行なったプロジェクト「 マイタワークラブ」 を例に、 状況をデザインするプロセスを建築の設計という視点から振 り返ってみる。

このプロジェクトは、 前項に記載している「 まちやたいプロジェクト」 と類似しているようであるが、 モノをつくるため半ば強制的にコトをデ ザインした後者と比べ、 前者はその二つの手法を同時に等価に扱っ ている。

また、 このプロジェクトでは「 まちやたいプロジェクト」 を通して確認 された、 建築における「 状況」 の有用性の次のステップとして状況を 設計することを試みた。 その設計手法について説明することを通して、 状況を設計することの有用性を考えていく。

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